カメに発生する病気のほとんどは、飼育環境の不備や単に飼い主さんの勘違いなどに起因している場合が多くあります。爬虫類の代謝は、哺乳類と異なりとてもゆっくりとしているので、病気の発症の過程も急性のものは少なく、徐々に悪くなってくるものが少なくありません。ここではカメに比較的よくみられる特徴的な病気をいくつか挙げておきます。
●尿結石
尿酸を排泄するリクガメに多くみられます。本来低蛋白質の食餌をしている尿酸排泄タイプのカメに高蛋白な餌を与えることによって、尿酸の排泄が増加します。また体内の水分が不足すると膀胱で水の再吸収が引き起こされ、膀胱内の尿酸の濃度が高まり、尿酸の結晶が促進され、結石を作りやすくなります。
◎症状
尿結石は、膀胱内や総排泄口あたりに形成されます。ロシアリクガメやケヅメリクガメなどのリクガメに多く見られます。小さな結石では症状を見せませんが、臓器を圧迫するような大きさになってしまったり、総排泄腔に詰ってしまうと排便、排尿が出来なくなるので、いきみや食欲不振の症状を示します。
◎治療
総排泄口に詰まってしまった場合には、外部から削ったり砕いたりして除去します。場合によっては甲羅を開けて結石を取り出す処置が必要となることもあります。
ケヅメリクガメの膀胱結石(レントゲン写真)
—
●卵詰まり
性成熟年齢に達すると、例え飼育環境下にオスの存在が無くとも、メスは無性卵を持つことがあります。そして、卵を産む場所が確保されていない、栄養状態が悪い、カルシウムの不足、卵が異常に大きくなってしまった、などの原因から正常に産卵できず、体内に停滞してしまう状態を指します。
◎症状
食欲低下、便秘などから激しく力むような仕草をしきりにしたり、よく眠るようになるなど、様々な症状が見られます。したがって、メス個体で、体調不良の時には、レントゲン検査などを行い、卵によるものなのか原因を特定しなければいけません。
◎治療
上記のような症状が見られるのであれば、動物病院にてレントゲン検査を受け、卵がちゃんと産める大きさなのか、全身の状態を血液検査などで調べ、摘出する必要があるかどうか特定しなければなりません。そして、総排泄口から掻きだしたり、場合によっては開腹手術を行わなければいけません。
卵が詰まってしまったクモノスリクガメ(レントゲン写真)
—
●ビタミンA欠乏症
ビタミンAが欠乏することによって粘膜の分泌腺の構造が変性する結果、眼瞼の腫れや鼻炎などを引き起こします。原因としてビタミンAの欠乏が挙げられますが、不均衡な給餌の結果引き起こされるものが多く、その他の栄養素も不足していることが考えられます。
◎症状
外観上、眼瞼が腫れて眼を開けられなくなっている状態が多いのですが、同じ様な症状を呈していても、角膜炎や衰弱などから引き起こされることもあり、獣医師に見せたほうがよいでしょう。
◎治療
雑食性のカメには動物質のものから植物質までバランスよく餌を与えるか、専用の人工飼料を与えるようにします。また草食のカメでは色々な野菜を与えるようにします。直接ビタミンA剤を経口的に投与したり、注射をすることで多くは改善されますが、過剰投与はビタミンA過剰症を引き起こすので注意が必要です。
—
●甲羅の損傷
何らかの外的な力が加わることによって甲羅が割れてしまうことがあります。
甲羅は、脊椎と一体となっており、血液も流れていますので、損傷すると出血も起こします。よくあるケースとして、ベランダから落下してしまった、犬に甲羅を咬まれてしまった、などです。カメは見かけによらず思いのほか脱走が上手な動物ですので、脱走対策には十分なほどの気配りをしましょう。甲羅が損傷してしまった状態では、内臓の損傷も同時に考えなければいけませんので、甲羅が割れてしまったときには、傷口が乾かないようにして、すぐに動物病院へ行きましょう。
◎症状
甲羅が割れていることにより確認します。
◎治療
甲羅の損傷と同時に、レントゲン検査などで肺、腎臓、肝臓など主要臓器にもダメージが及んでいないか判断します。傷口が汚れているようであれば、滅菌した生理食塩水などで十分に洗浄を行い、感染を起こさないように、抗生物質の投与を行います。甲羅の修復はグラスファイバーと樹脂を使って整復します。
甲羅を損傷したクサガメ 甲羅の整復直後
—
●ペニスの脱出
雄のカメでは総排泄口から出てしまったペニスが戻らなくなってしまうトラブルがよく起きます。冬眠からさめたばかりの個体や栄養状態の悪い個体でしばしばみられます。また過度の発情行動や他のカメによって咬まれてしまうことでも発症します。
正常な行動でもカメは時折ペニスを出しますが、飼い主さんが腸が出たと大慌てで病院に訪れることもあります。
◎症状
総排泄口よりペニスの脱出が見られ、戻しても元に戻らず、24時間以上経過した状態になります。
◎治療
初期であれば、優しく押し戻し、総排泄口に巾着縫合して収納します。また時間が経ってしまったり、損傷が激しい場合は外科的にペニスを切断します。カメの尿道は管状にはなっておらず、溝があるだけで、そこに精子が流れ伝わる構造なので切断しても問題ありません。しかし生殖能力はなくなってしまいます。